2009年12月22日

歴史小説>歴史学

12月17日に読売新聞の大阪版・高知版などに掲載された記事に「土佐藩京都藩邸資料 3人仮購入で県外流出防ぐ」というものがありました。記事の内容を要約すると「坂本龍馬の寺田屋事件についての報告書写しなどを含む574点の土佐藩の京都藩邸資料が、古物商から県外に売られそうになったところを、「土佐歴史資料研究会」のメンバー3人がとりあえず私費で購入して県外流出を防ぎ、その功績を県から表彰された」というようなものでした。高知県は11月末、これを1650万円で購入し、大崎富夫・県文化生活部長は「全国的にも反響の大きい資料。おかげで散逸させずにすんだ。ありがたい」と礼を述べたとのことでした。

既にWeb上では消えてしまっているのでリンクを貼れないのですが、手元にあるコピーによると、この記事の末尾には、資料が散逸されそうであるとのことを前記研究会に紹介した県立坂本龍馬記念館の森館長のコメントとして「この資料があれば歴史小説がもっと克明になるかも。膨大な資料なので、チームを作って解明していきたい」という談話が載っています。ちょっと残念なコメントではないでしょうか。

世の中の歴史認識が、やはり歴史小説>歴史学なのだということが、このコメントからうかがえます。しかし、資料の散逸を防ぐ理由が「歴史小説が克明になる」では、歴史ってのは結局娯楽でしかないのか、それじゃ必要ないんじゃないの?ということにもなりかねません。県立の記念館の館長のコメントがこうなのですから、世間一般の人々の認識は推して知るべきでしょう。

歴史学という学問が細分化・深化の一途をたどっています。こうしたなか、歴史学の論文や研究書を読みこなせる一般の人々というのはなかなか存在しなくなりました。かつて「自由民権百年運動」が人々に大きな影響力を持った時代とは違います。そうした中、歴史学の意義をどう一般の人々に伝えていくのかということが問われているといえるでしょう。しかし、これは言うは易く、行うは難し、です。

というのも、一般の人々が歴史小説を読むのはあくまでエンターテイメントとしてです。楽しみを得るためです。それに対して、学問としての歴史学はエンターテイメントではありません。単に「歴史の面白さ」を伝えるだけでは、空想を交えることも可能な歴史小説には勝てるはずもありません。しかし、面白みのない研究を人々が読もうとしないというのもまた事実。こうした状況のなかで、歴史学の徒は、いったいどうすればいいのか、頭を抱えるところです。

『坂の上の雲』のドラマ化で、近代史に関心を持つ人々も増えるでしょう。これはある意味チャンスであると思います。とはいえ、「司馬遼太郎の歴史観の誤りを糾す」という類の書籍や講演などがいくつかなされているようですが、それは、ちょっと違うのではないかという気がします。エンターテイメントである演劇や小説の作家を、歴史学の側が批判して意味があるとは、私は思いません。エンターテイナーにはエンターテイナーの使命があります。それは歴史学のミッションとは異なるものです。異なる目的のために創作活動を行なっている人を批判しても、決して生産的ではないし、そのようなものをどれだけの一般市民が読むのかも疑問です。

必要なのは、小説や演劇の歴史認識への批判よりも、むしろ、小説や演劇以上に市民に訴えかける力を持ちえていない歴史学への自己批判なのではないでしょうか。司馬遼太郎批判の本が、司馬遼太郎の作品以上に、人々に語りかける力を持っているでしょうか?否だと思います。市民に語りかける必要などない、という方ももしかしたらいるかもしれません。しかし少なくとも、歴史学という学問の意義だけは伝えていかない限り、このままでは歴史学自体が「事業仕分け」されてしまうかもしれません。いや現実に、大学のポスト削減などで、実際にそうなりつつあるように思います(もちろん意義のない学問なら、仕分けされてしまっても構わないのですが、歴史学は諸学の根本に位置する大事な学問だと私は考えます。これについては後日いずれ語りたいと思います)。

かくいう私自身、研究の殻に閉じこもってしまって、いくつか依頼された講演などをこなすほかは、市民に対して語り掛けること、歴史学の意義をアピールすることもほとんど出来ていません。日々の生活の糧を得る必要もあって、なかなかそうしたことには時間を割けないのが現実ですが、今後は、そうした発信を、少しでも心がけていけたらと思います。このブログもそうした手段の一つとして発展させることができたらと思います。

posted by Webmaster at 23:06| Comment(0) | TrackBack(0) | 研究関連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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